3人のお子さんの子育てがひと段落し
これからのご夫婦2人の暮らしを見つめ直したいと考えられていたK様。
なんとなく子育てに追われながら過ごしてきたこれまでの時間を振り返り、
これから先、夫婦ふたりでどのように暮らしていきたいのかを見つめ直す。
ご夫婦で対話を重ねながら、
おふたりの住まいづくりが始まりました。

今回のリフォームを考えるきっかけになったのは、大きな柱だったという奥様。
LDKの窓際
ちょうど海が見える方向に、大きな柱が立っていました。

YouTubeの動画の中では
「胴長短足の柱」と表現して下さっていますが、
この柱が視界に入ることで、天井の高さまで低く感じられ、空間が実際以上に低く、窮屈に感じられていました。
ご依頼時には直接お話しされていませんでしたが、
撮影時に伺ったところ、
実はこの柱がとても気になっていて、
リフォームを考え始めるきっかけになっていた
とのことでした。
住まいの中にあるひとつの気がかりが、
今回の計画の出発点でした。

K様は、さまざまな空間やインテリアがお好き。
「どれも素敵に感じてしまって、スタイルを絞りきれない」
という状態からのスタートでした。
そこでまずお願いしたのが、
お好きだと感じる空間の写真を集めていただくこと
これまで印象に残った空間を振り返っていただくこと
でした。
たくさん集めてくださったお写真の中には、
タイルを多用した高級感のある内装
けれど、煌びやかすぎない気品が感じられる空間
非日常を感じられる開放感
外の景色との美しい調和
といった共通する要素が見えてきました。
一枚一枚のお写真を見せていただきながら、
そこに共通する感覚や心地よさを探していく時間は、
この住まいづくりの中でも、とても大切なプロセスでした。
何度も悩み、考え、
方向性を見つめ直しながら辿り着いたのが、
海が見える眺望を生かした
「旅先のホテルにいるように毎日を愉しむ暮らし」
というテーマでした。

ホテルのような空間をつくるためには、
生活感を感じさせないための配慮が欠かせません。
生活感が出やすい要素としては、
冷蔵庫や電子レンジなどの家電
日常的に使う食器や道具類
などが挙げられます。
そこで、使い勝手を考えながら、
それらを見せないための
間取りの変更や工夫を凝らしました。
Before


After



加えて、吊戸をなくすことで、
旅先のホテルのような余白を感じられる空間にしています。

開放感が感じられる気持ちの良い空間にするために
柱の見え方も調整しました。
Before

After

Before

After

柱の周囲を、少しふかして形を整え
さらに梁の寸法を最小限まで抑えることで、
柱が天井までしっかり届いているように見える形へと整えています。

もともとの柱は梁下で止まっていたため、
柱の短さが強調されてしまい、
まるで天井が梁下までの高さしかないような錯覚
を生んでしまっていました。
この状態では、実際の天井高さよりも低く感じられ、
空間全体に窮屈な印象を与えてしまいます。

こうして整えることで、
柱が途中で止まっている印象をやわらげ、
視線が自然と最も高い天井ラインへと導かれるようにしました。
柱がスッと最後まで伸びているように高さが感じられることで、
気持ちの良い開放感が生まれました。
実際の高さは変わっていなくても、
見え方を整えることで、空間の印象は大きく変えられます。
この柱には、
ロックソルト(岩塩)をイメージしたタイルを採用しました。

透明感がありながら、
海辺にある岩のようなダイナミックさや力強さも感じられる素材です。
大胆さと繊細さ、
そして透明感。
相反する要素を併せ持つこのタイルは、
空間の中で自然と視線を引き寄せ、
柱をさらに印象的な存在へと引き上げています。
窓際に立つこの柱は、
海が見える方向に位置しています。
さらに、床に採用したベージュのタイルは、
砂浜を彷彿とさせる色合いと紋様を持ち、
空間全体にやわらかな広がりを与えています。
柱と床、そしてその先に広がる海の景色が重なり合うことで、
まるで海により近い場所にいるかのような、
不思議な感覚が生まれます。
壁面にはタイルを積極的に取り入れています。
タイルを多用することで、
空間に奥行きと質感が生まれ、
上質で落ち着いた印象をつくることができます。
クロスとは異なる素材感を取り入れることで、
日常の住まいでありながら、
旅先のホテルのような非日常感を
感じられる空間へ

さらに、
間接照明
光の角度を絞った照明
を取り入れることで、
光と影のコントラストを生み出し、
空間にドラマティックな表情を与えています。



この住まいは角部屋で、
両側の壁面に大きな窓が設けられています。
海を望む素晴らしい景色が広がる一方で、
西日が強く差し込むというお悩みもありました。
そこで、
ご主人の強いご希望でもあった
インナーサッシ(内窓)を設置しました。

さらに、
特に西日が強く差し込むキッチン周辺の窓には、
ノーマン(NORMAN)のウッドシャッターを採用しています。
こうした工夫により、
夏の暑さをやわらげ
冬の寒さを防ぎ
室内の温度を安定させる
ことができました。
個室を設けない広い空間でありながら、
エアコン一台で快適に過ごせているとのお話を伺っています。
冬でも半袖で過ごされることが多いほど、
一年を通して快適な住まいとなりました。
ホテルというテーマを深めていく中で、
もうひとつ、自然と生まれてきた変化がありました。
それが、
個室を設けないという結果です。

ホテルの空間を改めて見ていくと、
細かく部屋が区切られているというよりも、
ひとつながりの空間の中で、
ゆるやかにゾーンが分けられていることが多くあります。

そうした空間のあり方を見つめていく中で、
気がつくと扉も最小限となり、
この住まいには個室がなくなっていました。
最初から決めていたわけではなく、
テーマを突き詰めていった結果として、
自然と導かれたかたちでした。
メインリビングのソファは、
ベッドとしても使えるタイプを選んでいます。

お子さんたちが帰省された際にも、
きちんと寝るスペースが確保できるようにと考えた工夫のひとつ。
この形にすることで、
せっかくの時間を個室に分かれて過ごすことなく、
家族と同じ空間の中で時間を共有することができます。
K様は、リノベーション後、
家族との会話も増え、絆が深まったとお話しくださいました。

この住まいには個室という形はありませんが、
暮らしの変化に合わせて、
空間の役割を柔軟に変えていくことができる住まいでもあります。
子育ての時間を経て、
これからは夫婦ふたりの暮らしが中心となっていく中で、
「必要な分だけを持つ」
「二人だからこそ」
という選択が、この住まいのあり方を形づくっていきました。

そして、この住まいには、
寝室を兼ねたセカンドリビングがひとつ設けられています。

このセカンドリビングは、
これまで大切にしてこられたクラシカルスタイルを
そのまま受け継ぐ場所。

一方で、海をテーマとしたメインリビングは、
新しい自分に挑戦したいという想いの表れでもありました。
猫脚のピアノをはじめ、
ご結婚の際にお母様から贈られたクラシカルな家具。

その家具を大切に受け継ぎながら、
その後も少しずつ、同じ雰囲気の家具を揃えてこられました。
この住まいでは、
お部屋の広さを優先するため、
収納スペースの面積は、これ以上削れないほどの最小限に抑えています。
お洋服の量は比較的少なかったK様ですが、
旅先で集めてこられたオーナメントなど、
大切にされているものは数多くお持ちでした。
そのため、面積を増やすのではなく、
空間を最大限に活用することで、
収納の体積を確保する計画に。
例えば、
棚板の高さを細かく調整し、
高さが似たもの同士をまとめて収納することで、
限られた空間の中でも無駄なスペースが生まれないようにしています。
また、キッチン収納では吊戸棚をなくしましたが、
その代わりに、たくさんお持ちのマグカップやワイングラスがぴったり収まる引き出しの高さを、
一つひとつ検討しながら設計しました。
収納を減らしたからといって、
必ずしも不便になるとは限りません。
空間の活用の仕方と、
ものとの向き合い方によって、
暮らしの心地よさは大きく変わっていきます。
奥様は、「もの」と向き合った時間が、
ご自身の人生そのものと向き合う時間でもあったと
お話しくださいました。
なんとなく手放せずにいたもの。
改めて、大切にしたいと感じたもの。
思い出や好きなものを大切にしながら、
せっかくの広い空間が物であふれてしまわないように。
何を、どのように収めていくのかを、
K様と一緒に考え、工夫を凝らしました。
広さを優先するための選択は、
暮らし方だけでなく、
今までとこれからの
人生そのものを見つめ直す時間になったようです。

K様は、クラシカルな家具を大切に使い続けてこられたご夫婦です。
私のこれまでの施工事例には、
いわゆるクラシカルスタイルのインテリアは掲載してきませんでした。
そのため、なぜ私にお声がけ下さったのか疑問に思い、その理由をお伺いしたことがあります。
そうすると、
「スタイルの得意不得意よりも、
家づくりに対する考え方がとても素敵だと思いました。」
というお言葉をいただきました。
住まいづくりは、
形やスタイルを整えることだけではなく、
これからの暮らし方や、
人生の過ごし方を見つめ直す時間でもあります。
外側だけでなく、内面にも目を向けながら、
住まいづくりの時間をご一緒できたことを、
とても光栄に思っています。
完成後、改めてお話を伺った際、
とても心に残るメッセージをいただきました。
「アコさんと一緒に作り上げた家は、
玄関を開けた瞬間、ワクワクニコニコが詰まった空間で、部屋一つ一つに家族の思い出がたくさん詰まった
大切な宝箱となりました。」
この言葉をいただいたとき、
住まいづくりの時間そのものが、
ご家族にとって大切な思い出として残っているのだと感じて、とても嬉しくなりました。

家具が入り、
小物が整い、
ご家族がこの住まいの中で暮らしている姿を見せていただいたとき、
この住まいが、
ただ美しく整えられた空間ではなく、
ご家族の時間を過ごしていく場所として
しっかり存在していることを感じました。
住まいは、完成した瞬間が終わりではなく、
そこから少しずつ、
ご家族の暮らしとともに育っていくもの。
「宝箱」という表現は、
好きなものを集めて大切にしてこられた
とてもK様らしい言葉だと感じています。
これからもこの住まいが、
たくさんの思い出を育みながら、
ご家族にとっての宝箱であり続けてくれることを、
心から願っています。

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